精神分析的心理療法と転移について 2

 精神分析的心理療法の中で転移がなぜ起こってくるのでしょうか?

精神分析的心理療法では、日常では話さない、心の中の気持ちを長期間カウンセラーに話し続けます。話し続けることによってさらに心の奥にあった気持ちが表面に湧き上がってきます。

心の奥にあった気持ちとは、大部分が、自分が子供のころに体験して自分でもはっきりと言葉にできなかった気持ちです。そうして、それらを話すことによって気持ちが揺れてゆきます。なぜならば、それらは自分でも意識しなかった、あるいは意識したくなかった感情だからです。

その感情を目の前のカウンセラーに映し出すことを「転移」と呼びます。そして、その映し出された感情を治療的に扱うことが、精神分析的心理療法です。

ちなみに、そういった感情は、どんなセラピーでも自然に起こってくるものです。けれどもその人にとって未体験の感情は、まるで液体のように、それを受け止める器がなければ流れていってしまい、なかったものになってしまいます。

たとえば、夢分析ではそれが「夢」という形になって現れ、それを媒体にしてカウンセラーとクライエントが話し合うことで、感情に形を与えます。

また、箱庭療法や絵画療法では、クライエントがその感情を箱庭や絵画で表現することによって、カウンセラーと「その感情」を共有してゆきます。

「転移」では、その感情がカウンセラーに向かうのですが、それが自然に起こってくるとは限りません。特に週に一回、二週に一回などの頻度の面接では、その感情はカウンセラーに向かうことは少なく、多くはカウンセリング外の日常頻繁に接している人に向かいます。この現象を心理用語で「アクティングアウト」と呼びます。

ですから、アクティングアウトはむしろ自然な現象です。「これまでは何とも思わなかったけれど、なぜか最近無性に家族に対して腹が立って、言い争ってしまった。」などという話は臨床場面では本当によく聞きます。

これらは、カウンセリングが進んでいる証拠なのですが、そのままにしておくと周囲の人との関係がまずくなったり、本人が罪悪感を抱いたりと、いろいろと不都合が生じるので、「それはこの間私たちがこんな話をしたからではないでしょうか?」などと、カウンセリングの中に引き戻して、再び考える手助けをします。

正直な話をすると、面接の頻度が頻繁なほど、この「転移」の扱いは楽になります。なぜならば、クライエントの心の中でそれだけカウンセラーの比重が大きくなるからです。頻度が少ないと、クライエント自身に湧き上がってきた感情を留める力が必要ですし、湧き上がる力が大きかったりクライエントが心の中に留めておける力が足りないと、どうしてもそれだけアクティングアウトの確率も大きくなってしまうからです。

つまり、精神分析的心理療法では、転移はむしろ不可欠な現象で、それを治療的に扱えるかどうかにカウンセラーの技量がかかってくるのです。泉のように湧き上がる感情をしっかりと受け止める器としてカウンセラーが機能できることが理想なのですが、それが難しい場合もたくさんあります。

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