発達障害における「重ね着」の問題

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 最近は、発達障害という概念が一般化したためか、「家族は発達障害ではないか」「自分は発達障害ではないか」と疑問を持って訪ねて来られる方も増えました。
 
精神的問題にもトレンドがあって、現在は発達障害が流行語のようにも使われています。因みに少し前は双極性障害、それ以前は解離、ボーダーラインなどトレンドは移り変わってきています。
 
 気になるのはこの意味が「困った人」を総称する言葉として使われていることです。
 
 発達障害自体は「精神の病気」ではありません。不適応の症状がなければ治療の必要はありませんし、不適応を引き起こしていても、子どもならば適切なしつけや教育環境によって、成人ならば本人の自覚的な工夫や努力、環境調整などでかなり解決していけるものです。
 
 また、発達障害の人が「性格が悪い」わけではありません。当たり前ですが、健常者にもさまざまな性格の人がいるのと同様、発達障害者にもさまざまな性格の人が存在します。
 
 ただ、実際には発達障害の人が陥りがちな問題というのも存在します。
 
 発達障害者、特に自閉スペクトラム症の人は、心の理論が確立する時期が一般的に遅く、また不完全だと言われます。心の理論とは、簡単に言えば自分とは違う人の立場からものを見る能力のことです。この能力が不足すると相手の気持ちを読み取ることが不可能とは言えませんが難しくなるので、人から誤解を受ける機会が多くなります。
 
 また、安定した感情の基礎となる愛着形成も、上記の特性のために不利になることが多いので、成長しても不安定な性格になる確率が一般よりも高くなります。
 
実際、抑うつ、解離、双極性障害、パーソナリティ障害の背景に発達障害が存在するケースもけっこう多いのです。
 
 このようなケースを「重ね着」と表現します。重ね着の場合、シンプルな発達障害のみ、あるいは上記の精神疾患のみの場合よりも、治療的に困難度が高くなります。
 
 このようなケースの場合、どのようにセラピーで扱ってゆくのかと言いますと、まず二次的な精神疾患に的を絞ってカウンセリングをしていきます。ベースに発達障害の問題があると気づいていても、それに対して直接アプローチをしていくのは、本人にとって辛すぎるからです。重ね着を背負った人の苦しみは大変なものです。「なんで自分だけこんなに苦しいのか?」そのような思いで生きてきたのです。
 
 発達の問題はその人の特性として一生続くものですが、二次的な問題が解決していくととても楽にシンプルに、自分の特性に取り組むことができるものです。時間がかかりますが、そうしてほぐれていくと、その人が自分自身をありのままに受け入れて、その上でどうやっていけばベストなのかを考えていける時期が来るものです。周囲の人も、頑なにこじれた問題を抱える当事者に対して、「障害を認めさせなければ」と焦ることが逆効果だと分かっていただければと思います。