発達性トラウマなどの生きにくさを解消するための新しいセラピーの試み

 今回は、私が近年試みて良い結果を得られている、少々専門的なセラピーの詳細についてお話したいと思います。

これは過去のブログで書いてきた、動物の脳の進化やポリヴェーガル理論、そして近年アメリカで発展している、内的家族システム療法などの考え方を取り入れていますが、基本的には精神分析療法とも共通する方法として、私のカウンセリングで必要に応じて取り入れている方法です。

従来の方法でのカウンセリングの中で、この方法が効果的だと判断した方には、説明の上で導入してかなり効果を上げています。

その方法とは。これまでのブログで述べたことと重なりますが、「人の脳の中で最も強力な力を持ち、自我のコントロールが付きにくい部分は動物的な性格を持っており、動物の本能として、不安や恐怖、つまり生命の危機と無意識的に扁桃体で判断した状況に対してそれを防ぐ行動を取る。」ということをまず説明します。つまり不安を防衛する働きです。これを私のあるクライエントさんは「門番さん」と名付けたので、私もその名前を使わせてもらうことにしました。

「門番さん」は人によってたくさんの種類があります。精神分析用語ではこれは「防衛」と名付けられています。「門番さん」は不安から身を守ることに特化した行動を取るように促す働きをしますが、それらは子どもが成長していくいずれかの段階で、強い不安に晒された時に形成された、条件反射的な性質を持っており、大人になってからの自己にとっては必ずしも合理的とは言えないものも多くあります。

この「門番さん」には大きく分けて二つの種類があります。一つ目は、原始的な不安への動物的対処としての「闘争逃走本能」や、あるいはもっと酷い痛みを感じないようにするための行動様式です。怒る時には「怒りで不安を打ち消してそれを退ける」門番さんが働いているのかもしれません。不安や辛さを感じないようにする門番さんで、適応的ではないケースでは、アルコールやゲームや過食、解離、リストカットなどが考えられます。

もう一種類の門番さんたちは、私が「取り入れ系」の門番さんと名付けている人たちです。これは精神分析用語で「内在化」と呼ばれ、子どもから見た養育者を自分の心に住まわせて、養育者に見捨てられないように自分をコントロールする門番さんです。これは哺乳動物の「アタッチメント(愛着)システム」由来のものと考えます。つまり哺乳動物の子どもは親から離れると死の危険があるために親から遠ざかることや見捨てられることを本能的に恐れます。そしてそののちに独立するために親の行動をまねることも生きるために必要な本能です。

人の場合、高度な知性を持つ社会的動物である宿命から、この取り入れは動物よりもとても厄介になっています。「取り入れ系」の門番さんの生き残り戦略の基本はシンプルで、「養育者に嫌われることを避けることでもって生き残る確率を増す」という部分にあります。人の場合、これが「社会に認められる」「友人に好かれる」などの社会的要素が後には強くなっていきます。

これは精神分析用語では「超自我」に該当するものですが、発達性トラウマなどで子ども時代に強い不安や恐怖を感じた場合は、本来の超自我が持つはずの安心させる機能よりも「従わなければ嫌われて見捨てられる」という不安で駆り立てられる、白か黒かの極端な門番さんとなります。

つまりこういうことです。子ども時代にとても怖い、不安な気持ちに晒されて、それに気づいてもらえなかったり、適切に慰められなかった経験を持つ子はこう考えるでしょう。「なぜこんなことをされるのか?親は私を嫌いなのか?」と。その時「自分が〇〇だからこんなことになったのだ。そうならないためには親が気に入るように振舞わないといけない。そうしないと危険だ。」と。そのようにして成り立ったのが「取り入れ系門番さん」です。

もちろんこのような感じ方をすると同時に、これも本能として自然なことですが、「自分で自分を守らないといけない。」という一つ目の門番さんも出現します。怒りから諦め、否定や否認という防衛機制を取る門番さんも出現するでしょう。「分かってもらったり守ってもらうことは必要ない。自分は強いのだ。」と思うことで自己を保とうとする門番さんです。こういう門番さんも自立心という意味ではとても助けになりますが、成長して人に頼ったり頼られたりすることに困難をもたらすこともあるでしょうし、人生で自分の弱さに直面した時にはそれだけではうまく乗り切れません。

どちらの種類の「門番さん」も、柔らかな感性を持つ、傷つきやすい「子どもの自分」を守って働き続けてきています。そしてこのような門番さんたちは健康な心を持っている大人にも存在しているものですが、子どもの頃に辛く孤独な思いをしてきた人、つまりトラウマを受けてきた人はこの門番さんたちの考え方が極端だったり仲が悪かったり、お互いの存在に気が付かなかったりすることで、その人自身を生きにくくしてしまうという事態に陥っているようです。

一つの典型的な例としては、不安に対する原始的な反応をする門番さんと、取り入れ系の門番さんがけんかをし続けるというケースがあります。取り入れ系の門番さんは、過干渉な親のように「こうすべき」「こんなことは考えてはいけない」などととても厳しく自分を責め続けて、それに対して原始的反応の門番さんは「うるさい!」と怒り続けたり、その声を消そうとして考えないようにする方略を取ったりします。こうして自分自身の中の門番さん同士の戦いで疲弊して、様々な精神的問題が長引いてしまうことはよく見かけます。

このような問題を解決するために、まず最初に、上記のような「人格内人間関係」のお話をして、その人の中にどのような「門番さん」たちが存在するのかをその人といっしょに見つけ出す作業から始めます。これは生育歴やその人の辛さ、悩みを丁重に聞いていくことで、ある程度その「門番さん」がいつ、どのような必要性でもって出現したのかの目星を付けることができます。

そして最も大切な点として、この作業はセラピストとクライエントさんの「大人の自己」、つまり客観的に物事をとらえられて、合理的に考えることのできる、脳科学では前頭葉の働きとされる自己とが一緒になって見ていくことで進められるということです。

面白いことにこのやり方を受け入れていただけるクライエントさんの多くはこの作業に積極的に興味を持ち、自ら進んで門番さんたちを紹介してくださることも多いのです。楽しんでできるという点でも、このやり方は優れているようです。

さて、長くなりましたので、この後のプロセスは次回にまた説明することにして、今回はここで終わります。

記録的な暑さが続く毎日ですが、どうかお元気でお過ごしください。

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