講演会原稿 思春期の心性4

 この時期の後もうひとつ子どもにとって大切な課題の時期があります。それはエディプスコンプレックスといって、お聞きになったことがあるかもしれませんが、フロイトが提唱した概念で、無意識的に男の子がお父さんと競争してお母さんをお父さんから取ろうとし、女の子がお母さんと競争してお父さんをお母さんから取ろうとするという時期です。

 これはどういう意味があるのかと言いますと、子どもが自分の性別の違いを認識するとともに、お母さんと自分の世界、あるいはお父さんと自分の世界という一対一の関係から脱して、自分にとってもう一人の重要な人物を意識する時期です。

 その時子どもはどちらか一人を独占しようと試みますが、最終的にはどちらも自分にとって大切な存在で、しかもその二人はパートナーだということを納得しなくてはいけなくなります。そして誰かを独占するのではなく、三人以上の関係でお互いに張り合ったり大切にしたりということが自然にできてくると、それから先の人生で異なる個性の人とうまくやっていったり集団の中で自分の意見を主張したりすることにあまり困難を感じなくなってきます。また、異性のパートナーと助け合って生きていきたいという将来の願望の基礎にもなります。

 やっとここまでで幼児期に達成する目標が出そろいました。エディプス期が大体4歳ぐらいですが、そこから先の学童期は潜伏期といって、無意識のレベルでは比較的穏やかな時期として過ごすことができます。もちろんその時期にも登校渋りや問題行動が出てくる場合もありますが、それは大抵、一つ目のアタッチメント形成が不完全なためがほとんどで、環境の調整が整うと比較的早く収まります。

 そしていよいよ最初にお話した思春期に突入します。思春期を迎えると子供の無意識はそれまでと一変して激しく動き出します。思春期の始まりはその子によって異なりますが、女の子は早ければ小4から小5、初潮の時期ですね。男の子は小6から中学に入ってからでしょうか。

 最初にお話したように、第二次性徴が始まるあたりになると、親から距離を取り、独立したくなるという生物としての本能が動き出します。すると普通、イライラしたり親の言葉に反発したりします。特に男の子は学校での出来事をあまり話したがらなくなります。女の子もお父さんに対してよそよそしくなり、お父さんを悲しませたりします。

この時期、子ども自身もこれまでと違うこころと身体の変化を体験するために、とても不安定で不安な思いをしています。自分自身のそのような変化、周囲の同級生の変化を自覚して、これまでのようには恥ずかしくて親に甘えられないと感じるのですが、反面、不安な時には親しい人に近づいて安心感を得たい気持ちとの板挟みになります。「近づきたいけれど離れたい」これが思春期の一番の特徴です。

 ちょうどその時期に中学に入学して大きな集団に入り、部活や試験、塾というような未知の不安な体験に挑戦しなければならなくなります。これは思春期を迎えた子どもにとって大変なストレスです。

 そんなわけで小学生の不登校よりも中学生の不登校の数の方がぐっと増えることにもなるのです。