自分が分からない 社会不安障害やうつをまねきがちな日本人の心性

自分が分からない=自分が何を感じているかが分からない

長年たくさんの方のお悩みを聞いている中で、特に近年、何を悩んでいるのか漠然として分からないが、辛いという悩みの方が増えてきたように思います。

生きづらいという悩みも増えてきました。もちろん生きづらさには昨今の経済的な事情やコロナが長期化したために、交友関係や外出が制限されたことも大きいと思いますが、「自分が分からない」悩みにはもっと奥深いものがあると感じます。

自分が分からないという悩みの中にもいろいろなレベルのものがあります。自分の感情そのものが分からない場合もありますが、多くは自分が感じた感情や気持ちを意識できなかったり、意識してもそれを言葉にして伝えることができないと、多かれ少なかれ自分が分からないように感じてしまいます。

日本人の子育てと同調圧力

日本では、最近になって「個性を育てる」ことを強調するようにもなってきましたが、子育てに関しては、特に地方では、子どもの個性を伸ばすよりも、落ちこぼれなく普通に育ってほしいと願う親が多いと思います。人から見て変に、不快に思われないように、人と同じことができなくて苦しまないようにと親自身が生きてきた場合は、子どもが何を望むかよりも他人の目線を優先して子どもをそれに合わせようとしてしまいがちです。

例えば、子どもを叱る場合にも「それをすることは悪いことだとお母さんは(お父さんは)思う」と教えるのと「人に見られて恥ずかしいからやめなさい。」と叱るのではかなり違ってきます。後者の場合、それが続くと、自分が人にどう思われるか(恥ずかしい人だとバカにされるかもしれない)という意識が強くなります。もちろん一人一人の生育歴の背景はそれほど単純ではなく、さまざまな傷つきの体験の結果、「自分が分からない」というような不安となるのですが、日本人の特性としての同調圧力の強さは、そこからはみ出すことが恥ずかしい、仲間外れになるという不安がそもそもの背景になっていると思います。

自分がどう感じているか、どう考えるかをないがしろにしたまま、人に合わせていかないと恥をかいたり社会的に不利になると思うとすると、その人はとても不安が強くなります。前回のブログで少し書いたように、人は元来高度に社会的に発達した動物で、人から疎外されることによって生死にかかわる不安さえ感じるようにできています。自分の感情を自分でつかみ、それを他者に受け入れられない場合には自分自身にも受け入れられなくなり、いわゆる「自己肯定感」が低くなりがちです。

人から受け入れられないことへの恐怖

社会不安症候群の人たちは、職場や近所の人などが自分を受け入れないに違いない。それは自分が受け入れられないような恥ずかしい情けない人間だからという、無意識の信念を持っていることが多いようです。

またうつの人たちは、職場で人に評価されること、嫌われないことを大切にするあまり、自分の本当の感情、気持ちを無視し続けた結果、疲れ果てて動けないまでに疲弊してしまった人に多いと感じます。

どちらも幼少期から自分がどう感じるかよりも他者や世間の目を中心にして行動することが安全で良い生き方だという無意識の刷り込みの結果、そのようになったのだと思えています。他の人と違うこと、人から変にみられること、人から価値がないと思われることが心の深い部分で存在を否定されたり抹殺されるほどの恐怖なのです。

人に合わせる生き方のリスク

ただ、こういう生き方は高度成長期ではそれなりにうまく適応できることが多かったのですが、今のような、先の分からないサバイバルの社会ではむしろうまく適応できないようになってしまいました。例えばブラックな職場が多い中、理不尽な上司にパワハラを受けても頑張り続けるよりは、思い切って転職するか、それが難しければ趣味や副業や自分が認められる集団を見つけて、仕事は労働分の対価だけの賃金を貰う場所と割り切るほうがはるかに精神的に健全な時代です。

そのようなサバイバルの時代にとって必要なものは、周囲との同調よりも、自分がどう感じるかを優先して、それを元に他人との交流や人生設計を作り上げることができるような逞しい心だと思います。

 カウンセリングの意味

今、生きづらい人、自分が分からない人はどうしたらいいでしょうか?という疑問は当然出てくるでしょう。もちろん先ほどお話したように、生きづらい、自分が分からないことにもいろいろなレベル、段階がありますが、私自身はそういうにこそ腰を据えたカウンセリングをお勧めしたいと思います。自分について話すこと、自分を理解されることは時に怖くもあり、最初は何を話していいのかもどかしくもありますが、長い目で見ると自分自身への深い理解と受容につながります。

周囲の同調圧力と自分自身を理解して受け入れることはちょうど逆比例します。自分を理解して受け入れることができるようになればなるほど、周囲に無条件に同調しなくても不安にならなくなってきます。誰を尊重するか、その会社でどこまでのことをするか、あるいはどんな人を友人やパートナーに選ぶか、時には自ら孤独を選択するかを決められるまでに自分の生き方を受け入れられるようになれば、生きることはかなり楽になります。

2022121223524.jpeg