思春期心性と不登校

 思春期という時期は人生でも特殊な時期です。身体の急激な成長とともに第二次性徴が現れます。動物の場合、この時期には親から巣立ち、自らの子を持つのですが、人間はまだまだ心理的経済的に独立することができません。その葛藤から自然と両親から距離を置こうとする気持ちが本能的に働きます。

 つまり思春期の子どもが家庭内で親から距離を取り、自分だけの世界を持とうとすることはごく自然な心の働きと言えます。ところが現代では子どもだけの自由な時間を持つことは容易ではありません。授業が終わっても、部活動、塾、宿題に追われ、寝る時間までスケジュールがぎっしりという生活をしている生徒も珍しくありません。現代では物理的にも精神的にも自分の世界に籠ることが難しくなってきています。

 思春期を生きるというのはどんな気持ちでしょうか?大人でも思春期の1~2年、とてもイライラした、わけもなく親に当たりたくなった思い出を持つ人は多いのではないでしょうか?

 これまで素直だった子供でもイライラしたり言動がきつくなったりすることはこの時期によくあります。あるいは過激な自己主張をしてみたくなったり、ファンタジーの世界で自分を表現したり。よく言われる「中二病」という言葉はそのような特性をまさに表わしています。一般に中一、中二がそのような時期と重なります。

 思春期には、これまでの生き方を劇的に変化して再編成しなければいけないのです。どのような変化かというと、それは「自分の意志で自分の行動を決める」という課題に向けた変化です。もちろんこれは、周囲が本人の選択に口出しをしないという意味ではありません。周囲の適切なアドバイスや環境はもちろん必要なのですが、最終的に自分の行動を決めるのは自分自身の選択であるという意識をしっかりと持てるように生きる必要があるのです。

 この時期に始まる不登校の多くは、この課題に躓くために始まっているように感じます。何らかのきっかけで朝起きられなくなる、頭やお腹が痛くなる、夜になると元気になり、明日は必ず登校すると約束するが、当日になると起きられない・・・。

 私はこの現象をよく「アクセルとブレーキを同時に踏んでエンジンが空回りして進まない状態」に例えて説明しています。本人は本当に学校へ行きたいのですが、身体が言うことを聞いてくれない状態です。もっと言うと心の三層構造の中のイド(無意識の願望)と超自我がぶつかって自我がそれをうまくコントロールできない状態に陥っているのです。これは本人もすごく苦しい状態です。

 でもこれは上記のようなイライラした状態、つまり反抗期を本人の身体の中でやってしまっている状態ですから、周囲が何とか学校へ行かせようとする努力は大抵無駄に終わったり悪化させたりしてしまいます。

 ではなぜこのような状態になってしまうのでしょうか?そしてこのような状態になってしまった場合、どのような援助がうまくいくのでしょうか?長くなりましたので次の機会に回したいと思います。