親密な相手には共感しすぎないほうが上手くいく

夫婦関係、親子関係、時には治療関係で陥りがちな落とし穴に「相手に共感しなくては(相手の立場に立たなくては)いけない。」というプレッシャーがあります。

この落とし穴にはまりやすいのは、自分よりも相手を尊重しなければいけない、と自分を責める、まじめで優しい人たちです。

実は、相手の立場を思いやることは程々にしたほうが、うまく関係を持ちやすいのです。

たとえば、よくあるケースで、引きこもりのお子さんが、小さいころのお母さんの対応に対して怒り、繰り返し繰り返し責め続ける、というようなことがあります。「相手に共感しなければ」「相手の立場に立たなくては。」と聞き続けていたら、普通の人は辛すぎて、自分を責めてうつになったり、逆に相手に対して腹立ちが収まらなくなってしまい、自分の感情と相手の感情の板挟みになって身動きができなくなってしまいます。

この場合、「自分の感情よりも、相手の感情のほうが大事。」と思い込んでいたり、「自分と相手とどちらが正しい?」と自問する思考に陥ってしまっています。

私は先のブログで書きましたが、人の感情に「良い悪い」「正しい正しくない」という区別はありません。その人がそのように感じたのならば、その感情は真実のものなのです。

「ならばやはり、相手の怒りを受け止めないといけないのでは?」と、感じてしまうかもしれません。が、そうではないのです。あなたが、「そんなことを言われても、あの時は私にはそうするしかなかったし、そこまで怒らなくてもいいのでは?」と感じるその感情もまた、相手の感情と同じ重みがあります。どちらも真実なのです。人の数だけ真実が存在するのです。

「どちらが正しい?」という問かけには答えがないのですが、「どちらが大切か?」というあなた自身の問いかけには、明確な答えがあります。あなたにとっては、あなた自身の感情が、一番大切なのです。

まず、それを肝に銘じなくてはいけません。そうしないと自分自身が潰れてしまうからです。

そのうえで、相手との関係が自分にとって大切なものだとします。相手を助けたい、相手とうまく関係を持ちたいと思うのは当然です。では、どうしたらよいのでしょうか?

心から共感することはまず横に置いておいて、相手(の行動)が、自分にとって好ましいものに変化するように働きかけることが一番だと思います。そのために必要なことは、大抵の場合、「相手の気持ちを否定せずに聞く」という場合は多いのですが、そういう場合でも、心の中で「自分はそんなにひどい人間だったのか。」と思うのと、「この人にとってはそう感じたのだな。ちょっと言い過ぎだと思うけど、言いたいことを言わせてあげるほうがいいんだな。」と思うのとでは、聞く側にとって大きな差があります。「それは辛かったね。」「ごめんね。」という言葉も、相手の立場を思いやりすぎないほうが掛けやすいものです。

その後、もし相手に余裕があるならば、相手が自分にとってよりよい行動を取れるような言葉をかけることができます。「ごめん、これからはできれば○○してくれるとありがたいんだけど。」と言ってみると、聞いてくれやすいでしょう。

相手がこちらを責め続けるからといって過去の関係に縛られることはありません。大切な人と仇討ちごっこをする必要はないのです。相手とよい関係を築きたいのならば、相手と心から理解し合うのでなくても、相手の行動が変わるような働きかけをすれば充分なのです。それを達成するには、相手が自分にとって好ましい行動を取ってくれるにはどうしたらよいか?を自問することが必要です。

「自分の気持ちを相手に分かってほしい。」という願いはいったん棚上げする必要がありますが、それさえできて自分と相手の気持ちと行動を客観的に考えることができれば、案外答えは見えてくるものです。

ただしそれは、人の感情がそうであるように、簡単そうで難しいものです。当事者でなくてもカウンセリングを受けると効果的なのは、そのあたりの気持ちを整理して効果的な対応ができるようになるからなのです。

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