講演会原稿「思春期の心性」8

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 非常に具体的に語りましたが、今語ったC君のケースは実際の一つのケースではありません。ですが私が20数年不登校に関わった中での典型的なエピソードを組み込んで創作したケースですので、自分でもリアルに仕上がっていると思います。

 ここで強調したいのは、実際の不登校を見ていくと多くがC君の家庭のようにごくありふれた日本の一般的な家庭なのです。決して特別ではありません。

 さてC君の問題を先に述べた「アタッチメント形成」「イヤイヤ期」エディプス期」から見て考えてみましょう。

 C君は特に幼児期や小学校での問題行動もなく、アタッチメント形成に大きな不安定要素はありません。つまりお母さんのそばにいることで一定の安心感を持つことのできる関係ができているようです。

 でもイヤイヤ期がなかったということは、お母さんに逆らって自分の意志を出そうとすることに不安が強かったのかもしれません。あるいはお母さんの性格が相手を怒らせないように気を遣う人のようですので、C君もお母さんに合わせてお母さんに怒らない、怒らせないように子供ながらに気を遣ったのかもしれません。

 イヤイヤ期をうまく通り過ぎなかったら次のエディプス期でお父さんに反発することも困難なのですが、、その上C君の場合、お母さんはお子さんたちとの関係が強く、お父さんとお母さんとの関係に割って入るというエディプス期の三角関係もうまく成り立たなかったのだと思います。そうすると必然的に人と競い合ったり自己主張することが苦手で人に気を遣う性格になります。また必要以上にお父さんを怖がり、あるいは敬遠しがちにもなりやすいものです。

 このような幼児期の課題をやり残したまま思春期に突入したC君は、たぶんお父さんお母さん、そして自分自身の性格についていろいろな気持ちが芽生えてきたことでしょう。中学生になり、新しい大きな集団に入り、厳しい校則や部活動、級友たちとの関係を体験したC君は、反発することも自己主張することも思うようにできず、不安が一気に身体症状になって出てきてしまいます。それが頭痛、腹痛で、それがきっかけで不登校に突入します。

 話がいったん変わりますが、C君のような家庭が珍しくない中でどうしてC君が不登校になったのでしょう。

 C君のようにお父さんは子育てに積極的に関わらず、お母さんは人に気を遣う女性という組み合わせは珍しくありません。日本ではむしろ一般的ともいえるのではないでしょうか?またそのような家庭は昔からたくさんありましたが、なぜ昔はそれほど不登校が目立たなかったのでしょうか?

 ここにもうひとつの思春期の特性があります。小学校中学年ぐらいから「ギャングエイジ」「チャムシップ」とも呼ばれる、子ども同士の集団の絆が強くなる時期があります。大人から離れた世界で子供同士でグループを作り、その中で疑似家族体験をしていきます。昔は近所のきずなも強く、兄弟も多かったことからこの子供同士の集団には年代の違う子どもが集まり、その中で競い合いや自己主張をするチャンスにも恵まれ、同時に年長の子どもがお父さん役割を果たすこともありましたが、現代では子どもの数も減り、同級生との付き合いがほとんどになってきています。その上遊び方も変化し、競い合いやぶつかり合いも減ってきています。同質な仲間とだけの表面的なつながりでは十分な疑似家族体験にはなりません。

 ちなみに子ども同士の「チャム」や「ギャングエイジ」のようなグループで疑似家族体験をすることはC君のような思春期危機を回避するひとつの方法なのですが、そこには危険もあります。そのグループが非行グループであったりいじめが頻繁に起きるような問題のあるグループの場合、その影響を強く受けるからです。

   続く