精神分析の進化と発展

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  今回は少々難しい話になってしまいますが、精神分析理論の歴史とについて大まかにおさらいをしながら、最近の精神分析理論の動向についてお話をして行きたいと思います。専門的になってしまいますが、関心のある方はお付き合いください。

 フロイトから始まった精神分析理論は、最初はご存知の通り、父と母と子どもとの三角関係の葛藤であるエディプスコンプレックスが人間の心の葛藤の中心であるという説から始まりました。フロイトは、イド(無意識の欲望)と超自我(親から引き継いだ、こうあるべきという教え)を取り持つ自我を強化することが治療的に働くと考えました。この考え方はフロイトの娘であるアンナ・フロイトが引き継ぎ、欲動論自我心理学として今日でも精神分析理論の基本という意味で、その理論に基づく分析家は古典的フロイディアンと呼ばれています。

 

 これに対してイギリスのメラニー・クラインという女性分析家が打ち立てた対象関係論は、エディプスコンプレックス以前の乳幼児の内的対象関係を描くという革新的な試みです。この学派は主にイギリスで発展し、今日も大勢の分析家を生み出しています。

 クラインの理論では、赤ちゃんは生後、母親を一人の人間と認識できる以前に、よい部分と悪い部分に分けて認識する時期を経ているということで、世話をする母親が消えた時、それは赤ちゃんにとっては悪い母親と認識されているという。そして再び現れて世話をしてくれる母親はいい母親と認識され、最初は良い母親悪い母親クラインは母親ではなく「乳房」と言いました。)は一人の母親であるとは乳児は分からない、と論じます。

 この見方をクラインはP-Sポジションと名付け、そのような状態にある乳児は、世界が良いものと悪いものに分かれてしまったように強い不安を感じます。乳児は成長とともに、良い母親悪い母親は同じ母親だということが理解できるようになり、母親への気遣いができるようになり、不安が和らぎます。これを抑うつポジションと呼び、人は大人になってもこの二つの状態を無意識的に行き来している、と論じます。クラインのこの斬新な理論は精神分析を活気づけ、後に様々な分析家がその影響を受けました。

 

 一方アメリカでは、解釈が中心で共感性を軽視する古典的フロイディアンに対して批判的な理論が精神分析理論に出現します。コフート自己心理学はその頃爆発的に広がったロジャースの、日本でも有名なクライエント中心療法に似ていますが、それまでの精神分析では克服するべきものとされた自己愛を、健康な人格に欠かせないものとして、自己愛障害の精神分析での修復プロセスを理論化しました。これはのちに関係性精神分析理論に発展し、それまでは治療者が患者の無意識を分析し解釈するという一方向であった精神分析が、現在では患者と分析家の二者の間で起こっている現象に目を向けていく流れに変わって来ています。

 もう一つ重要な流れはクライン派の影響を強く受けたボウルビィから発展した愛着(アタッチメント)理論です。アタッチメント理論についてはべつの記事で説明しましたのでそちらを参考にしてください。画期的なことにはこの理論を実証するために、実際に幼児の観察や成人のインタビュー方式のテストが開発され、精神分析理論にもかかわらず実証可能な科学的手法を取り入れることができるようになったことです。

 

 上に述べたような大まかな流れの他、さらに多くの精神分析の学派が最近10年間にも現れ、あるいは愛着理論のように他分野と統合されて、現在の精神分析理論は本当に多様化してきています。

 

 なお、ユング分析心理学は、意外と思われるかもしれませんが、精神分析の分類には含まれていません。

 

 以上、精神分析の発展と最近の動向を非常に大まかに述べました。要約すると、フロイトの時代と比べて精神分析はより実証可能になり(エビデンスが得られるようになり)他分野と統合される方向に進み、治療者の側の一方的な解釈や介入から治療者患者間の相互交流を見ていきましょうという流れへと変わってきています。

 

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