心理カウンセリングでの話の聞き方

心理カウンセリングの中での話の聞き方について、私なりの考えをちょっと語ります。

心理カウンセリングでの話の聞き方は、普段友人などと話す中で悩みを聞くときとはかなり違います。

どこが違うのか。

友人などと会話するときは、会話に出てくる悩みに、「うん、うん」「それは大変だったね。」などと相槌を打って、時には「私も同じことがあったよ。」とか、「私はこうしたんだけど。」などと話して終わりになるのが普通だと思います。そういう聞き方で、話したほうもある程度すっきりして、気持ちの整理がつくものでしょう。

心理療法(心理カウンセリング)で、私が心掛けることは、ちょっと異なります。もちろん、相手の話に耳を傾けて相槌を打つことはしますが、それだけに留まりません。どこまでその人自身になりきって、話を聞けるかどうかが決め手になるのです。

ただ「自分がその人だったら」という外面的な立場だけでは、足りないのです。その人の感じ方にはその人の過去の歴史や、意識的な、あるいは無意識の信念や、その人独自の感情体験や、時には発達障害などの器質的な特性さえも含まれるのです。ですから、外面的に「私がその人だったら辛いだろうな。」とか、「私がその人だったらそんなことは気にしないのに。」と思ったとしても、それはあくまで「私」というくくりの中の相手ですから、その人が真にその体験をどう感じているか、とは別のものになってしまいます。

たとえば、友人に自分のことを誤解されて陰で悪口を言われていたと知ったとき、人はどう感じるでしょうか?

そんな体験は誰にとっても快くないものです。ですが、ある人はただ「いやだなあ。」と感じるだけかもしれません。が、別の人は、「誤解されるようなことをした自分が悪い。」と自分を責めるかもしれません。さらにある人にとっては、「だから人は信用できないんだ。」と感じて、これからは人に心を開くことはやめよう、と決心するかもしれません。極端になると、それだけで言い知れぬ不安を感じてしまって、外出できなくなる人もいるでしょう。

同じ体験をしても、このように、受け取る側によってさまざまな感じ方があるのです。どのような感じ方であっても、その感じ方をできる限りありのままに受け取り、理解することが、心理療法(心理カウンセリング)の中で大切なのです。

ですから、心理カウンセリングの中では、その人がどんな家族のもとでどう育ったのか、今どういう状態にいるのかを、事細かに聞いてゆきます。よく、精神分析的心理療法は、過去のことにこだわるといわれますが、そうではありません。決して過去にこだわっているわけではないのです。その人が、今そこに存在して体験していることの中には、必然的に過去の出来事、とりわけ幼いころ体験した出来事が含まれているのです。

そうして、その体験をできるかぎり正確に知りたい、理解したいから、さまざまな角度から質問することになります。その人の背景をある程度理解できたと感じた時、初めて、「そのような体験を積み重ねてきたのだったら、そう感じることは自然ですね。大変でしたね。」と、心から言えるのです。逆にいうと、心から言えない場合は、簡単にそう言わず、相手の気持ちをこちらが理解できるまで質問したり相手の言葉に耳を傾け続けます。

基本的に、客観的なアドバイスは、その人の心の中での体験が、こちらにしっかりと伝わってから、必要に応じてします。そうでないとその人にとっては「自分のことを分かってもらっていない。」と感じてしまうからです。

精神分析にはさまざまな理論があります。とても難しいものもありますが、どの理論も実は、患者を深く分かる(理解する)ための手助けとしてあるのです。

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