カウンセリングとユーモア

 カウンセリングを続けていくと、これまで症状や辛い気持ちで心がいっぱいで、それについてしか話さなかった方も、会話の中で思わずこちらが「ぷっ」とt吹き出すようなユーモラスなことをいえるように、しばしばなってきます。私はこのユーモアは、とても意味のある大切な要素であると思っています。

ユーモラスな表現ができることや、こちらが笑って突っ込むと一緒に笑えるということは、それだけ自分の状況を客観視できる力がついてきた証拠です。特に、ボーダーラインや強迫神経症の方は、来室された最初のころは、冗談を言える、受け入れる余地すらなくなっている場合が多いのですが、時間をかけて心がほぐれてゆくと、「自分のやっていることや感じていることってちょっとおかしいな。」と気が付く余裕ができてきます。そのあたりでこちらが上手に突っ込むと、笑って認めてくれたりします。もしその時怒り出すのならば、それはまだ突っ込む時期が早すぎたのです。時期がくれば、以前ならば否定したり怒ったことでも、「たしかにそうですね、アハハ」と受け入れられるようになります。

ユーモアは、人の心に隙間をもたらす重要な要素です。これまで信じ切っていた信念や、自分が圧倒されてきた感情から、少しだけ距離を置いて、客観的に自分を見たときに自分自身を「おかしいなあ」と思える能力が育ちます。もちろん、すべてを笑い飛ばして終わってしまうのならば、それもまた一つの防衛ですが、これまでユーモアすら持てなかった人が、自分自身を笑えるようになってきたのならば、進歩した証です。

ユーモアと、皮肉や嘲笑は、似ているけれども別のものです。前者は心に隙間を作り、そこに新しい何かが芽生える可能性をもたらしますが、皮肉や嘲笑は、相手をバラバラにして見下し、それによって自分が優位に立ったり満足感を得る行動です。悲しいことに、インターネットの世界では、ユーモアではなく皮肉や嘲笑があふれていて、人の心を傷つけます。

カウンセリングの中でユーモアをうまく扱うためには、カウンセラーのほうも、時にクライエントの突っ込みに、それが真実をついている場合は、「その通りですね、アハハ」と笑い飛ばせる能力が必要です。あるいは素直に認めることも。

カウンセラーが痛い部分を突かれた時、それを素直に認めて受け入れられるかどうかには、カウンセラーの資質が問われていると思います。言い換えれば、カウンセラーのほうも、常にユーモアにも真実にも開かれた心を持っていることが大切だということです。

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